図面を見ているときは、家の形はきれいに見えます。
でも私たち職人は、同じ図面を見て「これは大変な家だな」と思うことがあります。そして、その大変さは、そのまま将来のメンテナンスの手間と雨漏りのリスクにつながります。
施工歴16年、新築の外壁を張ってきた立場から、設計の段階で知っておいてほしいことを書きます。図面が固まってからでは動かせない部分なので、これから間取りを決める方に読んでほしい内容です。
職人が図面を見て身構える家
答えははっきりしています。
出隅・入隅が多く、下屋が多い家です。
用語だけ説明しておきます。
- 出隅(ですみ):壁の外向きの角。建物の四隅など
- 入隅(いりずみ):壁の内向きの角。凹んだ部分
- 下屋(げや):1階部分に張り出した屋根。玄関ポーチや1階だけ出っ張った部分の屋根
家の形が凹凸していると、この出隅・入隅が増えます。そして1階と2階の形が違うほど、下屋が増えます。
図面で見ると、こういう家は表情があって格好よく見えます。のっぺりした四角い家より、立体的で見栄えがします。だから選ばれます。
ただ、張る側から見ると別のものが見えています。
凹凸が増えると、何が起きるのか
継ぎ目とコーキングが増える
角が増えれば、そこには必ず継ぎ目ができます。継ぎ目にはコーキングを打ちます。
外壁で最初に傷むのは、壁そのものではなくコーキングです。切れたり縮んだりして、そこから水が入ります。
つまり角が多い家は、将来傷む場所を最初から多く抱えているということです。10年後、20年後のメンテナンス費用にそのまま乗ってきます。
切り欠きと端材が増える
外壁材は決まった寸法の板です。凹凸が多いほど、それを細かく切って納めることになります。
細い切れ端が増えると、見た目の通りが悪くなり、留める場所も少なくなります。単純に、強い納まりにはなりません。
時間がかかる
同じ面積でも、凹凸が多い家は張るのに時間がかかります。そして工期は、面積で決まっていることが多いです。
前回の記事に書いた「時間が足りないと細部が荒くなる」という話が、ここでつながります。凝った形の家ほど、時間が足りなくなりやすいのです。
一番言いたいのは、下屋の多い凝った屋根です
この記事で一番伝えたいのがここです。
下屋がたくさんある、無駄に凝った屋根。これが雨仕舞いを一番悪くします。
雨仕舞いというのは、雨水をきちんと外へ流す仕組みのことです。屋根と壁がぶつかるところ、屋根と屋根が重なるところ——こういう取り合いの部分は、板金と防水で処理します。
取り合いが増えるほど、処理する箇所が増えます。そしてそのどれか一箇所でも納まりが甘ければ、そこから水が入ります。
私の実感で言えば、雨漏りの一番の原因はここだと思っています。壁そのものが破れて漏るケースより、取り合いから入るケースのほうがずっと多いです。
デザインのために増やした下屋が、一番危ない
必要があって出ている下屋は仕方ありません。玄関ポーチや、間取りの都合でどうしても出る部分はあります。
問題は見た目のためだけに増えた下屋です。図面の上では立体感が出て格好いいのですが、その一つひとつが将来の水の入り口になり得ます。
設計の打ち合わせで、屋根の形が複雑になっていくのを感じたら、一度「この下屋は必要ですか」と聞いてみてください。意匠のためだけなら、減らす選択肢もあります。
窓について、これは完全に個人的な意見です
ここは職人としての話ではなく、一人の意見として読んでください。
丸窓は、正直やりづらいです
丸いサッシは、外壁を張るのが難しいです。板を丸く切り欠いて納めることになるので、単純に手間がかかります。
やめてくださいという話ではありません。好きな方は入れたらいいと思います。ただ、簡単な仕事ではない、ということは知っておいてもらえたらと思います。
飾り窓は、本当に必要か一度考えてみてください
図面を見ていて「窓、多いな」と思うことがあります。
好みの問題なので、こちらから言うことではありません。ただ、飾り窓がたくさんあると、これは要るのかなと思ってしまいます。
気になるのは後々のことです。家具を置くときに、窓が邪魔になってしまわないでしょうか。壁が少ない部屋は、住み始めてから置き場所に困ります。
外壁側から言えば窓は開口部なので、少ないほうが有利ではあります。ただそれ以上に、暮らし始めてからのことを考えて決めたほうがいいと思っています。
軒の出について:外壁屋ですが、軒を優先しろとは言いません
「軒が深いほうが外壁は長持ちしますか」とよく聞かれます。
壁のことだけを考えるなら、そのとおりです。軒がないと外壁に日と雨が直接当たります。傷みが早くなる可能性は当然あります。
ただ、私は壁の都合より、建物と敷地のことを優先したほうがいいと思っています。外壁を張っている人間が言うのも変な話ですが、そう思います。
土地に余裕があるなら、軒は出したほうがいい
敷地に余裕があるなら、軒を出すのはいい選択です。壁が傷みにくくなりますし、見栄えが立派になります。特に和風の家は、軒が出ているとぐっと格好よくなります。
土地が狭いなら、おすすめできません
問題は敷地に余裕がない場合です。
軒を出すということは、その分建物を小さくするということです。
理由は単純で、軒先が隣の敷地にはみ出すことはできないからです。軒先まで自分の敷地に収める必要があるので、軒を出したぶん外壁を内側に下げることになります。
たとえば軒を90cm出すなら、外壁は片側で40cmほど内側に下がります。両側で80cm。畳の短いほうの辺がだいたい90cmなので、横幅が畳一枚ぶん近く縮むと思ってください。廊下の幅や、部屋にベッドが入るかどうかが変わる寸法です。
敷地に余裕があれば、これは何の問題にもなりません。効いてくるのは土地がぎりぎりのときだけです。
さらに、建物の裏側などに中途半端なスペースができます。使いみちがなく、それでいて草は生えるし手入れは必要になる。あとから後悔しやすい部分です。
外壁が多少長持ちすることと、部屋が狭くなることと、使えない土地が残ること。どれを取るかは住む人が決めることです。壁のためだけに決めないでください。
換気フードや配管の位置は、設計のうちに決めてください
地味な話ですが、これは設計段階でしか手を打てないので書いておきます。
換気フード、配管、エアコンのスリーブ、雨樋——壁を貫通したり壁に付いたりするものは、いろいろあります。
職人としては、位置によっては足場との関係で張りづらいことがあります。ただ、これはこちらの都合の話で、仕上がりそのものに影響が出るわけではありません。やりにくくても、きちんと納めます。
本当の問題は、あとから位置を変えること
気をつけてほしいのはこちらです。
外壁が張り終わってから位置を変えると、せっかく綺麗に張った壁に穴が開きます。
もちろん、開いた穴はパテで埋めて色を塗ります。ただ、その部分だけ若干色が違ってしまうのが正直なところです。既存の外壁は多少なりとも日に当たっていますし、後から塗った色を完全に合わせるのは難しいんです。
位置や範囲によっては、張り替えになることもあります。そうなると費用も時間もかかります。
しかも、張り替えた部分だけ留め方が変わります
ここはサイディングの話です。
いまのサイディングは金具工法といって、板を金具に引っ掛けながら留めていきます。表面に釘やビスが出ないので、仕上がりがすっきりするのが利点です。
ところが、途中の一枚だけを入れ替える場合、その板は金具で留められません。そこだけ釘留めになります。
つまり張り替えた部分は、まわりと留め方が違う状態になります。色の違いに加えて、留め方まで変わってしまう。できれば避けたいところです。
だから、こだわりがあるなら先に言ってください
もし、こういう気持ちがあるなら、設計の段階で必ず伝えてください。
- ここには配線を出してほしくない
- 換気フードをこの面に付けたくない
- 雨樋の位置にこだわりがある
- 玄関まわりなど、目に付くところには何も見せたくない
図面の段階なら、線を引き直すだけで済みます。壁が張り上がってからだと、穴を開けるしかありません。同じ変更でも、タイミングで結果がまるで違います。
「こんな細かいこと言っていいのかな」と遠慮する方が多いのですが、先に言ってもらったほうが、こちらとしても助かります。
外壁材は、カタログと実物で印象が違います
形の話とは別に、これは必ず伝えておきたいことです。
カタログで見た印象と、実際に張り上がったものの印象は、違うことがあります。
小さなサンプルや印刷物と、家一軒ぶんの面積では、色の見え方も柄の出方も変わります。それに外壁は屋外にあるので、日の当たり方で表情が変わります。
一番いいのは、実物を見ること
可能なら実際に施工された家を見せてもらってください。これが一番確実です。
とはいえ、そう都合よく見に行ける方は多くないと思います。その場合は写真を、できるだけたくさん見てください。1枚ではなく複数枚。晴れの日と曇りの日、近くから撮ったものと引きで撮ったもの。
施工事例の写真を持っている会社は多いので、遠慮せずに「この外壁材で建てた家の写真をもっと見せてください」と頼んでいいと思います。
凝った納まりにするなら、打ち合わせは必ず
シンプルな家なら、正直そこまで細かく確認することはありません。
ただし細かい納まりや張り分けをするなら、打ち合わせをしっかりやってください。ここが曖昧なまま現場に降りてくると、想像していたものと違う仕上がりになることがあります。
図面の線一本で表現されている部分が、実際には何通りもの納め方があります。どう納まるのかを、着工前に確認してください。
まとめ:結局、シンプルな家が強い
ここまで書いてきて、結論はこうなります。
- 出隅・入隅と下屋が多い家は、施工も維持も大変になる
- 下屋の多い凝った屋根は、雨仕舞いが悪く、雨漏りの大きな原因になる
- 角が増えるほどコーキングが増え、将来傷む場所が増える
- 軒は壁のためだけに決めない。敷地とのバランスで考える
- 外壁材はカタログではなく、実物か複数の写真で確認する
- 凝った納まりにするなら、着工前の打ち合わせを必ず
シンプルな形の家は、職人として言うことがほとんどありません。特に聞くことがない、というのが一番いい状態です。
もちろん、格好いい家に住みたい気持ちは分かります。私も現場で「この家はいいな」と思うことがあります。デザインを諦めろという話ではありません。
ただ、凝った形にはそれなりの代償があります。施工の難しさ、雨漏りのリスク、将来のメンテナンス費用。それを分かったうえで選ぶのと、知らずに選ぶのとでは、あとの納得感が全然違います。
図面が固まる前に、この記事のことを少し思い出してもらえたらうれしいです。
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この記事を書いた人:新築外壁施工歴16年の職人。ALCとサイディングを専門に、年間180棟以上の現場で施工管理を担当。