「外壁工事はいくらかかりますか」
これは一番よく聞かれることだと思います。でも——私は相場の数字を書きません。
理由は簡単で、私は下請けの職人だからです。施主さんに出す見積もりを作る立場ではありません。うちに入ってくる金額しか知らないので、「この地域の相場はいくら」と言える立場にない。
ただ、何にお金がかかっているかは分かります。
施工歴16年、実際に壁を張ってきた側から、値段の中身を書きます。
まず、職人の手間は「平米単価」です
見積もりの仕組みから説明します。
外壁を張る職人の手間は、平米単価で決まります。
1平方メートルあたりいくら、という形です。
「一式いくら」は、今はあまり聞きません
昔は「一式いくら」という決め方もありました。でも今はあまり聞きません。
平米で出す方が、お互いに分かりやすいからだと思います。
張る手間とは別に、項目が立ちます
そして——壁を張る手間だけが費用ではありません。
別項目として、こういうものが入ります。
- 紙代(透湿防水シート)
- 胴縁
- 軒天
- 破風
- 副資材(水切り、換気材、オーバーハングなど)
「オーバーハング」というのは、建物本体から張り出している部分の下につける、水切りのような部材です。2階が1階より出ている家などに入ります。こういう細かい部材ひとつひとつに、金額がついています。
見積もりを見たとき、壁の金額しか書いていないものは、中身が見えていないということです。
同じ面積でも、金額は変わります
ここからが本題です。
同じ50坪の家でも、手間はまったく違います。
張りやすい現場は、早く終わります
職人にとって「いい現場」には、はっきりした条件があります。
- 現場が広い
- 材料が全量置ける
- 形がシンプルで張りやすい
こういう現場は、早く終わります。
早く終わると、どうなるか
平米単価で請けているので、もらえる金額は面積で決まっています。
だから——早く終われば、その分1日あたりの単価が上がります。人工(にんく)がかからないので。
逆に言えば、同じ金額なのに日数がかかる現場は、職人にとって割が悪いということです。
細かい仕事が増えると、変わります
軒天や、細かいことがそれなりにあると、金額は変わります。
壁をまっすぐ張るだけの家と、あちこちに納まりがある家では、同じ面積でも作業量が違う。そこは見積もりに出ます。
以前「家の形で外壁はどう変わるか」という記事で、凹凸が増えると手間が増えると書きました。それがそのまま費用の話でもあります。
材料の話:サイディング同士なら、変わりません
ここは、知っておくと役に立つと思います。
サイディングのメーカーを変えても、張る手間は変わりません。
ケイミューを張ろうが、ニチハを張ろうが、施工費は同じです。
変わるのは、材料の「種類」が違うとき
金額が変わるのは、そもそも材料が別物のときです。
- ALC
- ガルバリウム(金属サイディング)
- フュージェ(シーリングレスのサイディング)
これらは、それぞれ施工費が変わります。工法も手間も違うので。
つまり、こういうことです
「ニチハからケイミューに変えたら施工費が上がる」ということはありません。
材料費は変わりますが、張る手間は同じです。
もし見積もりでメーカーを変えただけで施工費が大きく動いていたら、理由を聞いてみてもいいかもしれません。
現場が遠いということ
これは施主さんには直接関係ない話かもしれません。でも、書いておきたいと思います。
現場が遠いのは、かなり効きます。
朝は行ける。帰りが無理なんです
職人は基本的に朝が早いです。早く出れば道が混まないので、行きは問題ありません。
問題は帰りです。
- いつも通りに帰ると、渋滞のピークに捕まる
- 遅くまでやれば帰りは楽だけど、帰宅が遅くなる
そして遅くまで作業すれば、その分だけ疲れます。
疲労は、溜まっていきます
毎日遠い現場に通うと、疲労がどんどん溜まっていきます。
寝る時間も減ります。
これが続くと、当然ながら仕事にも影響が出てきます。
地元の業者が有利なのは、ここもあります
「地元の業者の方がいい」とよく言われます。アフターフォローの話として語られることが多いですが、工事中の話としても意味があります。
近い現場の方が、職人は消耗しません。それは仕上がりに関係します。
安い見積もりは、どこを削っているのか
最後に、一番大事な話を書きます。
憶測も混じりますが、構造として考えると答えは限られています。
業者がいじれるのは、職人の手間だけです
考えてみてください。
- 元請けからの金額は決まっています
- 仕入れ値もほぼ変わりません
材料の仕入れ値は、交渉次第で多少は動きます。でも——今は物価が上がっていて、メーカーも値上げしないと厳しい。ほぼ強制的に仕入れ値は上がっています。
そうなると、業者がいじれる金額は、職人の手間しかありません。
だから「安い」には理由があります
見積もりが安いとき、そのしわ寄せがどこに行くか。構造上、職人の手間に行きます。
材料を安くできないなら、そこしかないからです。
ただし、単純な話でもありません
誤解のないように書いておきます。
安くしすぎると、職人はやってくれなくなります。
文句も出ます。当たり前です。割に合わない仕事は、誰もやりたくない。
だから業者も、どこまで下げられるかの駆け引きをしています。下げすぎれば人が来なくなる。でも高いままでは仕事が取れない。
そこのバランスが、今いちばんの壁だと思います。私から見ていても、簡単な話ではありません。
実際は、そんなに下げられません
ここまで「削れるのは職人の手間だけ」と書いてきました。構造としては、そのとおりです。
ただ——実際のところ、そんなに下げられないのが現実です。
会社も、持ち堪えようとしています
下げれば人が来なくなる。それが分かっているので、会社は企業努力でなんとかそのまま持ち堪えようとしています。
物価が上がって、仕入れ値も上がって、それでも単価は上げられない。その中で踏ん張っている。
それでも——ダメになってしまった会社があると聞きます。
これは職人の話ではなく、業界全体の話です。
正直な気持ちを書きます
最後に、個人的なことを書かせてください。
私も現場に出ている人間なので、現場の大変さは分かっています。
そして、これは断言できます。
職人がいないと、建物は仕上がってきません。
図面がどれだけ良くても、材料がどれだけ良くても、張る人間がいなければ家は建ちません。
お金に余裕があるなら
だから、こう思っています。
お金に余裕があるなら、単価も上げて、会社も職人も良くなっていけばいい。
誤解しないでほしいのですが、これは「高い方を選べ」という話ではありません。
予算には限りがあります。安く抑えたい気持ちは当然だし、そこを責める気はまったくありません。私だって自分の買い物では同じことを考えます。
ただ——見積もりの向こう側に人がいるということだけは、頭の片隅に置いてもらえたらと思います。
その人が疲れていないかどうかは、10年後の壁に出てきます。
施主さんへ
数字は書けませんが、見るべきところは書けます。
① 項目が分かれているか
「外壁工事一式」だけの見積もりは、中身が見えません。
- 壁を張る手間(平米単価)
- 紙・胴縁
- 軒天・破風
- 副資材
これらが分かれて書いてあるか。分かれている方が、比べられます。
② 極端に安い見積もりの理由を聞く
安いこと自体が悪いわけではありません。効率のいい会社はあります。
ただ、他より極端に安いなら、理由を聞いてみてください。
「何を効率化しているんですか」と。答えられる会社なら大丈夫だと思います。
③ メーカーを変えただけで施工費が動いていないか
さっき書いたとおり、サイディング同士なら張る手間は同じです。
材料費が動くのは当然ですが、施工費まで大きく動いているなら、確認してみてください。
まとめ
| 項目 | 内容 |
| 職人の手間 | 平米単価。「一式」は今はあまり聞かない |
| 別に立つ項目 | 紙代・胴縁・軒天・破風・副資材(水切り、換気材など) |
| 同じ面積でも変わる | 現場の広さ、材料が置けるか、形、細かい納まりの量 |
| 材料による差 | サイディング同士なら施工費は同じ。ALC・ガルバ・フュージェは変わる |
| 現場が遠い | 職人の疲労に直結する。地元業者が有利な理由のひとつ |
| 安さの正体 | 構造上、削れるのは職人の手間だけ(元請けの金額も仕入れ値も動かせない) |
| ただし現実は | 実際はそんなに下げられない。会社も企業努力で持ち堪えている |
外壁の費用は、材料費と手間賃でできています。
材料費はどこも大きくは変わりません。差が出るのは手間の方です。そして手間は、家の形と現場の条件で決まります。
だから——「外壁はいくらですか」という質問に、正確な答えはありません。家によって違うからです。
そのうえで、見積もりの中身が分かれているかどうかは、誰でも確認できます。そこだけは見てください。
そして——その金額の先に、張る人間がいます。
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この記事を書いた人:新築外壁施工歴16年の職人。ALCとサイディングを専門に、年間180棟以上の現場で施工管理を担当。下請けの立場のため、施主向けの見積もり金額は扱っていません。
